あらゆる病児の相談引き受けます
相談できる移動カフェでおいしいコーヒーをどうぞ
5月の休日、愛媛県松山市の公園で開催されたイベント会場の一角に、緑の車のおしゃれな移動式カフェがありました。一杯ずつていねいにドリップするコーヒー。辺りにはよい香りが漂っています。看板を見ると、「地域子どものくらし保健室」の文字が。テーブルの上には「病気のある子どもとその家族を支援しています」という案内もあります。
実はこれは、愛媛県松山市を拠点に慢性疾患のある子どもたちとその家族の支援に取り組んでいるNPO法人ラ・ファミリエが運営する移動式相談カー「25-25(ニコニコ)号」。病気のある子どもに関する相談事業の一環として、親子が集まるイベント会場や博物館などの施設で、気軽に相談ができる移動式カフェを開いているのです。
「相談カーの第一の目的は、外に出ることが難しい家庭への訪問相談です。この活動を広く知っていただくための啓発活動の1つとしてイベント会場でカフェを開いています。もちろん、お茶を飲むだけでもご利用いただけますよ。偶然立ち寄られた方からの、うちの孫が、とか、友人のお子さんが困っているというお話から相談に繋がることも多いのです」。そう語るのはラ・ファミリエの日山朋乃さん。西朋子さんと2人、地域子どものくらし保健室の専属の相談員として、イベント会場をはじめ、相談の声に応えて離島へ、山間部へと走り回っています。
緑の車に白いテントが目印。カフェでも相談は可能。
居心地のよい雰囲気に、リラックスして話ができます
制度の狭間にいるすべての病気の子どもたちへ
もともとラ・ファミリエでは、国や県の事業となっている慢性疾病のある子どもの自立支援や相談援助、通院などの際に利用できる滞在施設の運営などを行ってきました。ところが寄せられる相談の中には、制度の対象に当てはまらない病気や、行政の支援の枠組みがない障害も多く、支援制度の狭間で身動きが取れなくなっているこうした子どもたちへの対応が課題となっていました。そこで平成29年度に誕生したのが、あらゆる病児の困り事に対応できる相談窓口「地域子どものくらし保健室」と、外出が難しい家族や遠隔地の相談者に向けた25-25号での訪問相談です。
「必要なことはなんでも受けようというスタンスです」と日山さん。愛媛県内の小児慢性疾患の児童は約1200人。さらに、それ以外の疾患で地域子どものくらし保健室を必要とする潜在的な子どもの数は、その数倍存在します。
「専属の相談員2名に対して相談室を必要とする子どもの母数はとても多いのですが、私たちの後ろには、NPOの理事である医師や看護師、教育関係者、研究者、さらに企業の経営者など、25名もの専門家がついています。相談員を窓口としてこのネットワークにつなぎ、地域全体でお子さんを見て、育てていこうという考えです。成人後に制度がなくなってしまうような疾患もあるため、そのつなぎまでサポートしたいという、壮大な計画なんですよ」と、西さんは活動の目指す形を語ってくれました。
「25-25号」は日本初の移動相談カー。お披露目式には、
県知事や市長をはじめ、地域のさまざまな関係者が駆けつけました
NPOだからできる橋渡し
地域子どものくらし保健室に寄せられる相談でもっとも多いのが就学に関するもの。見た目ではわからない内部疾患をもつ子どもが学校に病気を理解されずに困難を抱えているといった内容や、特別支援学校や支援施設がない離島や遠隔地で希望の就学ができないといった相談など、個別の対応が必要なことばかり。そんな相談には、医師と一緒に学校へ行って直接先生と話し合ったり、役所へ出向いて活用できる制度を調べたり、ときには新たな制度を作るよう訴えるなど、ここまで支えてくれるのかと驚くようなサポートをしています。
「相談者と学校や行政との間の橋渡しは、NPOだからできることなのかもしれません」と西さん。専門知識を持つ第三者機関として、双方の考えを理解し伝え合う役割は、NPOとしての専門性と立ち位置を最大に活かした働きといえます。
ラ・ファミリエの慢性疾患のある子どもとその家族の
支援事業として実施している「媛っこすくすくキャンプ」。
慢性疾患をもつ子どもとそのきょうだいが参加して、
学生のボランティアといっしょに過ごします
研修会を通した顔の見えるネットワークづくり
支援制度の狭間にいる子どもたちへの対応は、制度がない分、新しい策を考えていかなければなりません。そのため、この相談事業の発展には、知識と情報の蓄積が不可欠であると西さんは語ります。そこで平成29年度には、県外から在宅医療の先進的な取り組みを行う医療者や厚生労働省の担当者を講師として招き、病児を巡る最新の施策や取り組みについて学ぶ「在宅ケア研修会」を開催。地域の訪問看護などの関係事業者も多数参加し、大きな反響がありました。地域からの参加者同士の出会いは、顔の見える連携、お互いの相談を繋ぎ合える双方向の関係づくりの第一歩にもなったといいます。
活動が盛んになるほど必要となる活動資金のためにも、今後は新しい収益事業も考えながら動いていきたいと話す西さん。「ここへ来ればなんとかなる」そう思ってもらえることが地域子どものくらし保健室の目標です。一本の電話が繋ぐ相談者の元へ、今日もかわいい緑の車が走っています。
3回開催された「在宅ケア勉強会」には、延べ200名以上の参加者が。
地域力のベースアップとなりました
・特定非営利活動法人ラ・ファミリエ
団体情報はこちら(CANPAN団体DBへ)
・ 2017年度 日本財団助成事業
医療的ケアに対応した地域連携ハブ拠点のモデルづくり
難病の子どもの退院後の自宅生活やライフステージの変化などに対応する、地域の連携先との切れ目ない相談体制や生活支援サービスの提供とともに、地域資源をバックアップする人材育成などを行う地域連携ハブ拠点における持続可能な事業体制づくりを行う。
「地域子どものくらし保健室」事業
相談車による家庭訪問事業、啓発相談イベント、専門員による相談支援などを実施。
「在宅ケア勉強会」3回の開催で210名参加。