子どもの笑顔が溢れる地域作りを目指して
地域のネットワーク作りの場を
熊本県中北部、熊本市に隣接する合志市に本拠地を置く認定特定非営利活動法人NEXTEP(以下、NEXTEP)は、すべての子どもたちが笑顔でいられる社会を作りたいと、医療的ケアの必要な子どもたちのための訪問看護ステーション、小児専門の居宅介護事業所、障害児通所事業所を立ち上げ、医療、生活援助、日中の活動という3つの柱で子どもとその家族を支える体制を作ってきました。不登校児サポート、発達障害児の就労支援事業にも取り組み、困難を抱えるあらゆる子どもたちの伴走をしています。
2016年に熊本地震が起きた際、日頃のネットワークの大切さを痛感したNEXTEPは、医療的ケア児をめぐる地域コミュニティ作りの場としても活動できるハブ拠点として、熊本市内の医療的ケア児へのサポートが足りていない地域に新たな通所を作ることを決意。日本財団の助成を受けて2020年4月に新たなハブ拠点「シュシュ」を熊本市南区近見に開設しました。
シュシュには訪問看護ステーションや通所事業である児童発達支援、放課後等デイサービス、相談支援に加え、多目的室や地域交流室を整備。これらのスペースは地域の人も勉強会や打ち合わせなどで使えるほかに、障害の有無にかかわらず親子が参加できる子育て支援教室や、きょうだい児支援のためのワークショップ、フラワーアレンジメントや料理教室も行っています。相談会のほかにも子どもの自立支援のお話会、今後は大学生による学習支援を予定するなど、地域の交流が広がる場を目指しています。
この場所があってよかった
医療的ケアの必要な子どもが通所に通うことで、家族は自宅での24時間の介護からひと時離れて、休息をとり、自分の時間を持つことができるようになりました。
スタッフが試行錯誤しながら考えた遊びを元気いっぱいに楽しむ子どもたち。それを見る家族の表情は明るくなり、子どもにも家族にも笑顔が増えたのはよかったことの1つだといいます。
また、それまで歩くことのできなかった子どもが、他の子どもが歩行の練習をするのを見て自分も積極的に挑戦するようになるなど、施設に通うことで驚くほどの成長を見せてくれます。子どもの成長に、親からは「この場所があってよかった」と言われることも。
「病院での専門的なリハビリはもちろん大切ですが、他の子どもと共に過ごす相乗効果には思った以上に大きな力があります。この地域の医療的ケアの必要な子どもがいる家庭では、訪問看護を利用する人は増えていますが、様々な活動に加わることができる通所施設があることはまだまだ周知されていません。医療者側にも通所が子どもの成長にとって大切だと伝えられる人がもっと増えてほしい」とNEXTEP理事長で小児科医でもある島津智之さん。
命を輝かせる子どもたち
理事長の島津さんは、学生時代にパッチ・アダムス氏の講演会で2000人の参加者を集めた経験から「行動をして思いを伝えることの大切さ」を知ったと言います。
「みんなで力を合わせて作り上げていった経験が自信につながり、人との出会いに支えられてここまできました。医師とNPOの二足のわらじと言われることもありますが、自分の職業は『子どもたちのためにやれることをする』です」。
命を救うのが医療。そして、助かった命とその家族をどうやって支えていくか。そこをNPOが補い、医療と役割を分担していくと島津さんは言います。
「子どもと家族の生活の質をいかに上げるかを考えたときに、制度の壁があって病院では限界があることを、我々NPOは新たなチャレンジをして補い合ってきました。子どもの笑顔は嬉しいものですが、たとえ笑う表情ができなくても、言葉を発しなくても、その圧倒的な存在感で命の輝きを伝えてくる子どもたち。その子どもを目の前にしてなんとかできないかと動き、制度がないからと諦めずに、『目の前の〇ちゃんのために』と必要なことをやってきた積み重ねが今の事業展開に結びついています」。
目の前の子どものために
NEXTEPでは、医療的ケア児に限らず、貧困、不登校、虐待、引きこもりなど、子どもに関わる問題への引き出しを増やしていきたいと活動をしています。
「これまでも『目の前に困っている子どもがいたらなんとかしよう』という一貫した考えで活動をしてきました。医療的ケア児は法律が制定され、社会的認知が広がったと言えますが、子どもの貧困、虐待など、いまの法制度では救えない子どもたちに寄り添い続けていきたい」。
貧困から抜け出すための手立てとして、病気や対人関係に不安のある人、不登校などの挫折経験のある若者が働く久遠チョコレート熊本や、食堂や農作業などの自立と就労支援にも力を注ぎます。
2022年1月には新たな拠点を開設し、さらに6月にスタートするクリニックを建設中。
「目の前の子どもたちの笑顔のために、今できることをやっていく」。NEXTEPはこの主軸の元、地域に根をはり、子どもたちに寄り添い続けます。
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●2018年度日本財団助成事業
医療的ケアに対応した地域連携ハブ拠点の整備