障害の重い子どもの学びたい!を支える
一人一人の困難さに寄り添う訪問学習
認定NPO法人スマイリングホスピタルジャパン(以下、SHJ)は、病院や施設で療養生活をおくる難病児、障害児に「本物のアートを届ける」ことを目指して2012年に設立。音楽や美術のアーティストを派遣して参加型のプログラムを提供しています。日々の治療の緊張や不安を忘れて夢中になる時間は子どもたちにとってかけがえのないもの。その活動の輪は全国に広がっています。
2018年より、在宅療養中の医療的ケア児、重症心身障害児の学びたい思いに応えようと、訪問による学習支援「SHJ学びサポート」を行なっています。特別支援学校の高等部を卒業すると、多くの障害児の場合、学習の機会がほとんどなくなってしまいます。学びサポートの学習支援員で特別支援学校の教員でもある松本健太郎さんは当時担当していた子どもたちが高等部卒業後も学びを継続できるようにと、家庭訪問による学習支援を始めました。
また、特別支援学校に在籍していても体調の都合などで、通学することができず訪問籍として在宅で週に3日授業を受ける子どもたちがいます。SHJ学びサポートはその自宅に、特別支援学校教員、言語聴覚士、音楽・芸術のアーティストがご家庭を訪問し、学習を支援しています。
「どうしても『できない』ことが先にきてしまうのですが、『何に困っているのか』に注目して、環境を調整したり支援機器を利用することで、できることが増えていくのです」と松本さん。
障害児は多様性・個別性に富んでいて抱えている困難もさまざま。それに応じて環境を整えるためには一人一人の状態に合わせた多様な支援機器や教材が必要です。意思伝達ができるカード、視線入力装置、タブレットなど、学習支援に必要な支援機器を導入し、それぞれの障害や学習環境に合わせた教材をオリジナルに製作。温もりが感じられる木製のものを中心に、子どもたちの繊細な感覚に細やかに対応するものを手作りしています。
今回の助成を受けて購入した機材を利用することで、教材を作成する作業の効率が上がって作業担当者の負担が減り、個人の運動機能に対応した支援機器や教材がスピーディーに作れるようになりました。

「自分でできる」を支える
障害のある子どもが学習するときは、まず縦横、奥行などの空間の認識の基礎学習をします。操作のしやすさ、手触りのよさ、見やすさ、わかりやすさをその子どもの困難さに合せて調整します。
「我々は肢体不自由とその他の障害を併せ持つ重症心身障害児と言われるお子さんを対象にしているのですが、彼らは主に3つの困難さを持っています。見えにくさ、聞こえにくさなどの感覚や知覚の困難さのため外の世界の情報を受け取りづらい『情報の制約』、運動の困難さのため自分が思った通りにできない『行為の制約』、自分の思いを伝えにくい『意思伝達の制約』です。こうした困難さに寄り添いながら学びのサポートをして、『自分でやってみる』を支える工夫をしています」。
「子どもは叩いたり投げたりと体を動かし、環境に働きかけて、環境からのフィードバックをもらいながら知性を育みます。健常者であればスムーズに学んでいくことも、障害の重い子どもたちはゆっくりと示してくれます。試行錯誤しながら自分でやって、環境や他者からの承認を受けて、そこで自信をつけて、また試行錯誤するサイクル。その達成感を味わってもらいたいのです」。
学習支援を2年以上続けたことで、運動をコントロールする力が育ち、目や手の動きがしっかりしてきたという女の子、苦手意識のある算数が学習教材を利用することで進歩して本人の自信に繋がったというケースもあります。また、枠付きの文字盤で文字の表現をしやすくなった子どもが文章を書き、支援員と一緒に創作した動画をYouTubeに載せたこともありました。
我が子の可能性を知った家族からは、「学習支援を続けてできることが増えた」「SHJの学習支援が心の支えになっている」といった感謝の声が寄せられます。

学習支援員の育成が急務
これまでオリジナルで作った教材には、認識しやすくするために「青色を使う」「外枠を設ける」「始点と終点を明確にする」など、子どもとのやりとりで培ったノウハウと工夫が詰まっています。
「今後の課題は学習支援員の確保と育成です。学校との連携を図るため、特別支援学校の教員に見学をしてもらいました。言語聴覚士や視覚能力訓練士も見学にきています。支援教育の担い手を増やしていくためには、専門性が高い賛同者を増やして時間をかけて育てる必要があります」と松本さん。
「教材の開発をさらに進めて、それを広く共有するためにノウハウは囲い込まず、他の団体とのネットワークを使っていろいろな地域の子どもたちに繋げていきたい」とこれからの思いを語ってくれました。

夢中になって取り組む様子は支援員にとっても励みになります
子どもの可能性を最大限に広げる
「子どもの権利条約や教育基本法でも謳われていることですが、教育の目的は『子どもの可能性を最大限に広げること』だと思っています。障害のある子どもは、多くのことを抱えながら学習の道筋を示してくれる凄い存在。子どもたちの素晴らしさを広く知ってもらいたいですし、この方法さえあればできるということを、本人、ご家族はもちろんのこと、世の中に知ってもらいたいです」と松本さんは訴えます。
「SHJは一人一人の自尊心、心に寄り添いながら、これからも障害のある子どもの可能性を子どもと共に創造していきます。『誰一人取り残さない』というキーワードはよく言われていますが、これは昔から特別支援教育、障害児教育という分野で先人がされていたこと。ぜひこれを若い人に伝えて、支援員の育成をしていきたい。面白いと思ったらぜひ活動に参加してほしいです!」。
病気や障害があっても、学ぶ喜び、生きる喜びを子どもたちに感じてもらうために。SHJのこの活動がさらに発展し、より多くの難病児たちに学習支援が届くことが期待されています。
▼スマイリングストア(教材を紹介する冊子『バリアフリーみんなの教育図鑑』とオリジナル教材はこちらからご購入いただけます)
https://smilinghpj.stores.jp/
▼スマイリングホスピタルジャパン「学びサポート」
https://shjmanabisupport.org/wp-manabi/

認定NPO法人スマイリングホスピタルジャパン
●団体情報はこちら(CANPAN団体DBへ)
-
- ●2023年度日本財団支援事業
- 難病の子どもを対象とした在宅訪問学習支援の提供