全国の家族が繋がりを喜び合ったフォーラム(後編)
支援法の施行一周年を祝って
医療の進歩によって救われる命が増えた一方で、退院後に自宅で医療的ケアや介護を担う家庭が増えています。家族が担う介護の負担を軽減し生活を支援するために2021年9月に「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律(以下、支援法)」が施行され、専門的な相談に応じる支援センターの設置が全国的に進められています。
そうした中、医療的ケア児の家族の声を社会に届けるために全国の家族会から成る「全国医療的ケアライン(アイライン)」が2022年3月に設立。
9月には支援法の施行から1年を祝う「全国医療的ケアライン全国フォーラム」が開催されました。
全国から家族が集まって現状を報告し、みんなが繋がりを感じて喜び合い、これからの活動への思いを確かめ合う1日となりました。
前編はアイライン代表の宮副和歩さんへのインタビューでしたが、この後編ではフォーラムに参加したご家族にお話を聞きました
※前編の記事はこちら。
全国の家族が繋がりを喜び合ったフォーラム(前編)
https://nf-nanbyoujishien.com/archives/3240/
多くの出会いに支えられて
大阪在住の小西奈月さんは中学二年生の女の子、さきちゃんのお母さんです。さきちゃんは後天性の低酸素脳症という病気を持っています。
「子どもが入院した時に面会に行っても同じような状況の医療的ケア児の家族にはほとんど会えずどんどん孤独になって苦しかった」と小西さんは当時を振り返ります。
さきちゃんが未就学児だった14年前、医療的ケアが必要という理由で保育園には入れず、肢体不自由児の子どもの発達支援を行う療育園では入園するまでに1年半も待たされました。また、小学校の入学時には放課後等デイサービスに電話をしても20か所全て断られてしまいました。
そんな中、「さきちゃんどうしたらいい?」と一人の子どもとして受け入れてもらえた言葉が支えになったといいます。これまでにそうした出会いを大切にして、その出会いが今に繋がっています。
「今回、あたたかな雰囲気に包まれたフォーラムに参加して、決して一人ではないんだと感じることができました。また、医療的ケア児に関心のある議員が動いてくれるのをただ受け身で待つのではなく、支援法を生活に即したものにしていくためには、きちんと自分たちの思いを社会に向けて声を上げていかなくてはと感じました」。
フォーラムで報告された、アイラインが全国の家族に行ったアンケート調査では「親の就労や所用、急用のためのレスパイト施設の不足」「学齢期の通学先への自主送迎」「卒業後の通所、勤務先への受け入れ」が大きな課題として挙げられました。
「今日も医療的ケア児が生まれていて、孤独や不安でいっぱいになっている親御さんがいます。自分にできることは、一人じゃないよと伝えて寄り添っていくことだと思っています。アイラインには、全国の家族が繋いだ手が離れることがないよう支え合い、まわりを巻き込んで医療的ケア児のことを世の中に広く知ってもらえる会になってほしいと期待しています」。
孤独じゃない、あたたかな繋がりを
石川県の親の会「PareTTe(パレット)」代表の谷畑由佳さんは、特別支援学校二年生の女の子、真歩ちゃんのお母さんです。パレットは主にオンラインで家族同士の交流を行っていて、バギーで入れる近隣の眼科や内科の情報、生活のことなど、地元に暮らしているからこそ聞ける情報の交換などが盛んです。
「最初の一歩が大切で、誰かと繋がればその人から情報を得て、繋がりを広げていけるのです。パレットを設立してから1年になりますが、インスタグラムを見て来た人同士がラインでやりとりをしていて、そんな時はああ、よかったなと思います」。
谷畑さん自身も、真歩ちゃんの病気が分かり、1年の入院を経て退院した後もなかなか外に出る気になれずに引きこもっていた時期がありました。児童発達支援施設に通っていましたが、その単独での通園実績があったにもかかわらず小学校入学時の就学相談では、酸素チューブの取り扱いが自分でできなければ付き添いが必要だと言われてしまいました。
「その後、県のガイドラインが変わり、入学から1か月の付き添いを経て今は仕事ができるようになりました。子どものケアのために親が仕事を諦めなければならず、付き添いを求められることが当たり前なのはおかしいと思っています」。
医療的ケアのある子どもたちのための環境整備は、子どもたちが適齢で家族から離れて学校、社会の中で成長する機会を得て、家族、特に母親がキャリアを諦めることなく仕事を続けるという当たり前の選択ができるようになることを意味します。
「障害があって、病気があってもみんな普通に社会の中で一緒に生きていけたら。それが本当のインクルーシブだと思いますが、まずは自分の身近なところから、小さい幸せから始めようと、医療的ケアの子どもたちとみんなで楽しい生活を送れたらと活動をしています」。
「フォーラムの会場ではオンラインで見たことのあるお顔も多く、直接話をしてお互いの気持ちを理解することができました。ボランティアの方々もとてもあたたかく、参加できて本当によかったです」と谷畑さんは微笑みます。
「全国の家族会の繋がりだからこそできることがあります。アイラインができたことで家族の声が届きやすくなり、石川県の声も届けることができるようになりました。先進事例や他県の活動は刺激になります。見習うところは見習って、全国の底上げになるような活動をしていきたいです」。
家族の声を届けていく
「医療的ケアが必要な特別な子どもとしてではなく、一人の子どもとして見てほしい。そんな社会になってほしい」というのは、当事者家族みんなの願い。
「ここ数年で『医療的ケア児』という言葉をニュースでよく見るようになりました。さらに世の中に浸透して、『医療的ケアがあるからできない』ではなくて、『じゃあどうしたらいい?』と聞いてもらえるようなあたたかい社会になってほしい」と小西さんは言います。
アイラインではそうした家族の声を社会に届け、医療的ケア児とその家族が暮らしやすい世の中になるための提言を続けていきます。
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医療的ケア児を取り巻く環境に関するフォーラムの開催