全国の家族が繋がりを喜び合ったフォーラム(前編)
全国の家族の声を伝えるために
「やっと会えたね!会えて嬉しい!」
バギーに乗った子どもを連れた家族が喜びの声をあげています。
ここは東京国際フォーラムのホール。2022年9月18日に全国の医療的ケア児とその家族、関係者が一堂に会する「全国医療的ケアライン全国フォーラム」が開催されました。
日本では医療の進歩と共に救われる子どもの命が増えました。その一方で、退院後は在宅で家族による24時間のケアが必要とされるにもかかわらず就学や在宅を支援する仕組みは未整備のものが多く、受けられるサービスには地域の格差が広がっています。
2021年9月に「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律(以下、支援法)」が施行されたことで、医療的ケア児とその家族の間には状況の改善への期待と共に、意向をきちんと伝えていかなければならないという思いが強まりました。
そうした流れのもと、47都道府県の家族会と支援者が集まりオンラインで話し合いを重ね、会則や組織作りなど半年の準備期間を経て、2022年3月に全国の当事者、家族、支援者を繋ぐ「全国医療的ケアライン(アイライン)」が設立されました。「ライン」という言葉には、これまでばらばらだった存在を1本の線で繋いで強い絆を築くという意志が込められています。
支援法の施行1年を祝い、自分たちの思いを伝えようと開催されたのがこのフォーラムです。
一人じゃない、仲間と繋がる喜び
「このフォーラムは全国から医療的ケア児とその家族が集まった初の取り組み。開催した目的は2つあり、1つはこれまでオンラインでやりとりをしていた人たちが実際にリアルで会って繋がり合う喜びを実感してもらうこと、もう1つは多くの人にアイラインの存在を知ってもらうために自分たちの現状を伝えることでした」と代表の宮副(みやぞえ)和歩さんは話します。
宮副さんも医療的ケアを必要とする10歳の男の子のお母さんです。子どもが学校に入るまで受け入れ先がどこにもない、就学後も送迎と校内待機をしなければならかったなどの経験から、その状況を改善したいと地元板橋区で親の会を立ち上げて活動をしてきました。
当日はあいにくの台風の接近にもかかわらず22都道府県から家族会関係者が会場に集まり、これまでにオンラインでやりとりをしていた仲間と会えた喜びを爆発させていました。
遠出することが初めての家族や、会の後に東京タワーに遊びに行った家族もいたといいます。会場に行かれなかった25県の家族もオンラインでリアルタイムに参加することができました。
第一部は、支援を受けるために引っ越しをしなければならなかった未就学児の父親、就学時の親の状況を宮副代表から、卒業後も毎日充実して過ごせる生活介護事業所を作った母親と、それぞれの立場にいる親からの報告の後、二人の母親が登壇して「子の自立と家族の自立」を考える座談会を行いました。
第二部では国会議員、省庁の関係者などを交えたシンポジウム「医療的ケア児の通学と親の付き添いは今」をテーマに議論を交わし、立場はそれぞれに違えど、医療的ケア児の幸せを願う思う気持ちはみな同じだということを確かめ合う時間になりました。
第三部は雰囲気を一転し、バイオリニスト増田太郎さんの優しい演奏を楽しみました。
地域の一人の子どもとしてみてほしい
「学生や地域の支援者のボランティアにも多く集まってもらい、医療従事者に待機をしてもらうなど、会場で安心して過ごしてもらえるように努めました。この経験を今後のイベント開催に生かしていきます」と宮副さん。
支援法が施行されたことで、地域によってはそれに対処するスピード感、重みや考え方の差がでて、差を縮めるための支援法がかえって地域の格差を広げていることは否めないと宮副さんは感じています。
「私たちの生活でとても困っていることの1つに、どこにも受け入れてもらえない、思ったような受け入れ先がないということがあります。これまでは病院、学校、役所などの様々なところに親が随時問い合わせをしなければなりませんでした。今回の支援法により全国に設置が広がっている相談支援センターやコーディネーターが着実に機能してくださることがありがたいですし、期待をしています」。
このほかにも、医療的ケアができる人を増やしてほしい。大学ではもっと医療的ケア児の授業を増やしてほしいなど、伝えたいことは数多くあります。
「メガネをかけるように、医療的ケアは日常を過ごすための行為。胃ろうや人工呼吸器などの選択肢が世の中に増えて、子どもが家で暮らせるようになりました。障害があるから、医療的ケアが必要だから仕方がないではなくて、一人の子どもとして、自分たちの地域に住んでいる子ども、社会で普通に暮らしている子どもとして見てもらいたいのです」と宮副さんは訴えます。
「今回、お互いに繋がりあい孤独でないことを確かめ合うことができました。一人では余裕も何もなくて伝えられないことも、繋がり合い共有し合うことでまとめて声を届けられます。重い病気や障害があっても、安心して暮らし続けられる社会作りのために国や自治体に政策提言をし、イベントをするなど発信をしていきます」。