障害のある子と親のための小学校就学支援「みんなで就学活動」
どうする? 我が子の就学先
障害のある子どもが成長をしていざ園を卒業となると、その先をどうすればよいのかと悩む親御さんが多いといいます。
支援が必要な子どもを持つ保護者には、同じ地域の中に同じような支援が必要で、同じような就学希望先を持つ人が少ないケースも多く、情報やネットワークのない中で一から始めなければならない就学活動。そんな親子のために、小学校就学を支援しようと生まれたのがNPO法人イシュープラスデザインの「みんなで就学活動」プロジェクトです。
高橋真(ちか)さんは自身が障害のある子どもの親としての経験から、どのようにすれば就学活動に取り組む保護者の負担を減らせるのか、大学院で研究を続けていました。多くの保護者にヒアリングをする中で、分かりやすく楽しく情報を伝えていくことの大切さを実感。そこで、様々な社会課題の解決をデザインの力で取り組むNPO法人イシュープラスデザインとタッグを組み、日本財団の助成を受けてこのプロジェクトを立ち上げます。
まずは障害児の就学に関する課題の全体像を把握するために、ヒアリングとリサーチを難病児や障害を持つ子どもたちの保護者や団体に行い、情報を収集して課題を抽出。「みんなで就学活動」と銘打って、就学活動を始めた保護者を対象にワークショップやトークイベントを開催しました。
先輩との出会いが心の支えに
ヒアリングとリサーチで見えてきた課題は2つありました。まず1つは、自分の子どもに合っている就学先が分からないこと。もう1つは、希望を決めてから就学先が確定するまでにやることのイメージがつかず、自治体や学校関係者とのやりとりが上手くできないことです。
「相談員の人が理解してくれずつらい思いをした」「小学校は勉強するところだからと校長先生に断られてショックだった」というお母さんの声もありました。
子どもに合う就学先探しについては、高橋さんが作成したチェックシートを使うことである程度の絞り込みが可能になりました。2つめの課題を解決しようと「就学先を実際に確定するためにどこでどんなことをするのか」が疑似体験できるワークショップを開発し、就学活動を行う保護者を募って開催しました。
このワークショップでは、動物たちが暮らす空想の街「シューガクタウン」で出会う自治体の就学相談員や学校の先生、地域の保護者といった様々な立場の人(動物)とのコミュニケーションを通して実際の対応を学んでいきます。楽しく親しみやすい表現がイシュープラスデザインの腕の見せ所です。
こうして小学校に入学するまでの家族や専門家との協力、相談員とのやりとりをシミュレーションし、具体的な行動や予想される困り事を知り、それに対する対処法である「こうしよう術」を他の参加者と話し合います。
参加者の中には「これからどうしようかと不安だったが、たくさんのアドバイスをもらい本当に嬉しかった」と涙するお母さんもいました。
登下校に保護者の同伴が当たり前になっていた学区内の支援学校ではなく、別の学区の支援学校に通わせたいと考えていた医療的ケア児のお母さん。引っ越し予定の地域に住む、別の障害がある子どもを持つお母さんと「この地域の受け入れ態勢はこんな感じだったよ」「病院とは、こう連携するといいよ」と、アドバイスを含めた会話が弾み、ワークショップ終了後には画面越しに連絡先を交換していました。
また、就学希望の小学校に通う知り合いがおらず一人で頑張っていた医療的ケア児のお母さんは、このワークショップに参加することで初めてその学校に通う先輩の保護者と交流することができました。昨年お子さんが入学されており、学校で呼吸器をどうするか、どこまでやってくれるのかなど専門的な内容について教えてもらえたお母さんからは「その出会いが心の支えになりました」との感想が寄せられました。
「様々な地域に様々な状況のお子さんがいます。まずは就学活動の全体を理解するところから始めていただき、そこからそれぞれの地域、お子さんの状況にあわせて考えるなかで必要な人や場所と繋がっていくようなきっかけにこのプロジェクトがなれば」とイシュープラスデザインの稲垣美帆さんは話します。
みんなすごく孤独─みんなに参加してもらいたい
「この1年のプロジェクトを通じて、みなさんすごく孤独なんだなと感じました」とイシュープラスデザインの森さん。
「行政などがいろいろな支援をしているのだと思いますが、コロナの状況もあって集合型の勉強会や説明会はなかなか実施されません。就学活動には専門用語や法律の話がたくさん出てきますが、何から始めていいか分からず、それを相談できる人がまわりにいないのが大きな課題です。少し先をいく先輩の保護者に相談できたり、インタビューを読めたりというところにまだまだ多くの可能性があると思います。例えば本を出すなど、どうすれば必要な方に届いていくのか試行錯誤しながらやっていきたいです」。
「親御さんがオンラインでワークショップに参加するのはまだ敷居が高いのかもしれません。ワークショップに参加したみなさんの満足度はとても高く、喜んでいただけるのですがワークショップ開催の情報自体を必要な方にくまなく届けることが難しく、まだまだハードルがあると感じた1年でした」と高橋さんは振り返ります。
「孤独を感じている親御さんにいかに繋がり、参加してもらい、伝えることができるのか。そのためにもこの活動を続けていきます。個人の方も、団体の方も、このプロジェクトの事を知って興味を持っていただいた方は、全国どこでもぜひお声がけいただいて一緒にこのプログラムに取り組めると嬉しいです」。
●2020年度日本財団助成事業
難病児・障害児の就学先決定のための支援体制づくり