医療的ケア児の成長を見守り続けるあたたかな場所
ケアが必要な子どもが外で過ごす居場所を
鳥取県米子市にある「博愛こども発達・在宅支援クリニック(以下、クリニック)」は地域のニーズに応える形で2019年4月に開所しました。
クリニックの玉崎章子院長は、鳥取大学医学部付属病院で勤務している時に病院を退院後に在宅で子どものケアをする家族のサポートをしていました。鳥取県では訪問看護の人材は近年徐々に増加している一方で、医療的ケアが必要な子どもがお母さんや家族と少しの時間離れて過ごす場所が不足しているため、子どもたちが第三者のサポートを受けて同世代の子どもと遊び、将来の自立を目指す場所を作りたいと働きかけ、日本財団の支援を受けて開所されました。
ここでは医療的ケア児、重症心身障害児を対象に、通所事業(医療型児童発達支援、児童発達支援、放課後等デイサービス)、病床を利用した医療型短期入所、訪問診療、訪問リハビリを行っています(※医療型児童発達支援は2020年7月より休止中)。成長発達を促すための生活訓練や、放課後等デイサービスでは学校終了後に療育を行うなど、多機能型事業所として利用者の多様なニーズに対応。また、クリニックでは脳神経小児科・小児科の外来診療や予防接種・健診、病児保育も行っています。
「在宅で過ごす比較的低年齢のお子さんが家以外の場所で遊んで過ごせるようになり、親のレスパイトや社会復帰にもつながったと思っています」と玉崎院長。
人材のすそ野を広げる研修
その内容は、医療的ケア児の在宅支援を担う医療等多職種連携養成研修事業と、医師による巡回支援相談。研修中の支援者が子どもの自宅を訪問するときには同行して支援するなど、そのニーズにあったオーダーメイドの研修を行います。
あたたかな眼差しで成長を見守る
スタッフにとっては、子どもの成長と発達が何よりも嬉しく励みになっています。
「経管栄養が必要で自分で食べるのは難しいだろうと言われていたお子さんが、クリニックに通ううちに他のお子さんと公園に行き、水遊び・砂遊びなど、他のお子さんがやっていることを楽しめるようになりました。そして給食も少しずつ食べられるようになり、経管栄養から卒業できました。さらに周囲との関わりによってお喋りが発達し、次のステップである地域の保育園に通われることになりました」。 こうした子どもたちの発達やステップアップが嬉しいと保育士の中原奈穂さん。
呼吸器をつけた状態で病院を退院して訪問リハビリを受けていたお子さんが、クリニックの児童発達支援に通うことで発達が進み呼吸器が外せるようになるなど、医療的ケアが徐々に少なくなったことも。
看護師の河藤知代さんは「最初は厳しい表情だった親御さんも、子どもが通所することで母子分離の時間ができ、親御さんはリフレッシュされ、お子さんはいろいろな体験をすることで笑顔をみせてくれることが増えます。そうすると親御さんの言葉が『泣いて困るんです』から、『可愛くて手が離せないのです』に変わっていくのです。その時によかったなと感じます」と愛着形成の大切さを話してくれました。
ここには子どもたちの成長をあたたかく見守り、共に喜び合う場があります。
安心して共に成長できる地域を
「リハビリの職にかぎらず誰もがその子の持つ力を協力しながら伸ばせる場、大人も子どもも共に成長していける場になったらいいなと思っています」と理学療法士の石原亜紀子さんは言います。
「この事業所は期待も多く利用者も増えて、よかったと思っています。県全体で多くの事業所が頑張っていますが、鳥取県は人口が少ないので事業所当たりのケア児の数、スタッフの数が都会にくらべて少なく、看護師や保育士はどうしても孤独を感じてしまいます。そういう意味でも、事業所の横のつながりを作る役割を拠点として担っていきたい」と玉崎院長。
新たな法律が施行されて医療的ケア児のことが話題になりましたが、まだまだ浸透していないのが実情です。 「この子たちの存在をまずは知ってほしい。地域の学校に行きたい医療的ケア児は増えていますが、まだまだ壁は高い。道を切り開くパイオニアになるこの子たちと共に頑張っていけたらと思っています」。
「究極を言うと、特別支援学校は不要になり、地域の子どもと共に成長していける世の中になればいいな。学校で当たり前に同世代の子どもと過ごすことのできる社会になってほしい。それを目指して活動をしています」。
人材のすそ野が広がり、医療的ケア児とその家族が安心して暮らせる地域づくり、どんな子どもも病気や障害の有無にかかわらず、共に成長発達し、自立して生活することができる地域。その実現に向けて、クリニックはこれからも走り続けます。