医療的ケア児の移動支援や送迎を大調査
移動支援・送迎は社会参加、サービス利用の入口
神奈川県横浜市の北部エリアで障害児者福祉医療事業を行う社会福祉法人キャマラード。「重い障害がある人が地域の中で自分らしくいきいきと生きる」を理念に、生活介護、診療所、医療型短期入所をはじめ、日帰りの一時預かり事業(医療型特定短期入所)や訪問看護ステーション、グループホームなど、重症心身障害児者などの重い障害のある人たちが、地域で、家庭で暮らすための支援を幅広く手がけています。
通所系事業はすべて送迎を行っており、特に日帰りの一時預かり事業では、毎月延べ100名以上の子どもたちが利用しています。看護職員や研修を受けた専門スタッフの同行が必要な医療的ケア児の送迎も行っていて、法人全体で毎日15台程度が稼働する送迎車のうちの約三分の一に看護職員が同乗しています。
ところがここ数年、医療的ケアを必要とする利用者の割合が増え、送迎における看護職員の不足が課題となってきました。社会福祉士及び介護福祉士法の改正により、定められた研修(喀痰吸引等研修)を受けた介護職員等も痰の吸引などの医療的ケアができるようになったことから、キャマラードでは非医療職の支援員の喀痰吸引等研修を進め、送迎においても非医療職の添乗を目指してきました。その実現に向け、他の事業所での移動支援や送迎の現状を把握したいと考え実施したのが、今回、日本財団の助成を受けて行なわれた「医療的ケア児に対応した移動支援調査」です。
車いすの移動支援では、スクールバスよりも
3〜4台を乗せる事ができるワゴン車が活用しやすいそう。
さまざまな面から移動支援の現状を知る
この調査は、キャマラードの事業の参考とするためだけでなく、もう1つ大切な目的がありました。それは、全国的な問題となっている医療的ケア児の通学支援の実態把握です。
医療的ケア児童の約7割が通う特別支援学校の多くは登下校にスクールバスが活用されているのですが、衛生や安全確保に問題があるとして医療的ケア児に利用が認められていないところがほとんど。スクールバスは医療的ケアが必要ない子どもしか利用することができず、医療的ケアの必要な子どもには、一部の自治体では看護職員が同乗するワゴンタクシーが活用されているところもありますが、毎日保護者が送迎しているところがほとんどです。
「今の制度ですと、親御さんの体調や都合で子どもが学校に通えなくなることがあります。これでは子どもの学ぶ権利が守られません。通学も含めた移動の支援は、介護者の負担軽減だけでなく、子どもの教育の機会を守るためにも極めて重要な取組みなのです。福祉においても移動はあらゆるサービスの入口で、重要な支援であると私たちは考えています」と、キャマラードの法人事務局長、太田幸弘さんは語ります。
そのような目的のため、今回4種類の調査が実施されました。1つは平成26〜27年度に滋賀県で行なわれた、モデル事業「医療的ケア児童生徒通学支援研究事業」の検証。通学支援の計画時やスタート時の課題が明らかになりました(①)。2つ目が、特別支援学校への通学支援を行っている移動支援事業者へのアンケート。219の事業所へアンケートを送付し、55カ所から回答が得られました(②)。3つ目が、障害のある子どものための放課後事業「放課後等デイサービス(以下、放課後デイ)」へのアンケート調査。放課後デイでは、学校〜放課後デイ〜家庭間の送迎を毎日行っています。アンケートでは517カ所へ送付したうち、243カ所からの回答がありました(③)。そして4つ目が、医療的ケア児の送迎を実施している5つの放課後デイへの訪問調査です(④)。これらの調査結果は、報告書にまとめられ、ホームページに掲載されています(http://fields.canpan.info/report/detail/21028)。
全55ページに渡る報告書。医療的ケアの必要な子どもの移動支援に関する
さまざまな立場の支援者の声が報告されています
管轄省庁による、移動支援対応の違いが明らかに
通学支援に関する調査は文部科学省が毎年実施していますが、厚生労働省が管轄する放課後デイへの調査は今回が初めて。それにより、学校への通学支援が遅々として進まない一方、医療的ケア児を受け入れている放課後デイでは学校や家庭までの送迎を行なっている事業所が約80%に達していたことが明らかになりました。
放課後デイは平成24年度から始まった新しい制度であるにもかかわらず、多くの事業所が医療的ケア児の送迎を行っていたことに驚いたと太田さん。重症児への報酬が手厚く、また送迎がないとサービスへの利用にも結びつかないため、看護職員を添乗させて送迎を行なうことは当たり前に受け止められてきたのではないかと語ります。
「今回の調査で、放課後デイには医療的ケア児の送迎のための専用車と人材、そして経験が揃っていることがわかりました。現在改善への検討が進められている医療的ケア児の通学支援でも、これらを生かすべきであり、ぜひしくみ作りの参考にしてほしいと思います。キャマラードで看護職員が同乗する送迎を始めたのは比較的最近のことで、試行錯誤を繰り返しながら行ってきたのですが、放課後デイでは最初から当たり前に行なわれている事を知り、社会の変化に気付かされました」
調査では、看護職員以外の喀痰吸引等研修を修了した職員が医療的ケア児の送迎に添乗している事業所は極めて少ないことも明らかになりましたが、キャマラードでは非医療職の支援員が医療的ケア児者の送迎車に添乗することを目標に、この調査を元にしたマニュアル作りやフォローアップ研修といった体制を整えているとのこと。この取組みは、全国でも先進的なものとなりそうです。
医療的ケア児や障害のある方への移動支援や送迎は、教育や通学、社会参画といった権利のためのベースです。この調査は、キャマラードの事業に留まらず、日本全体の医療的ケア児の移動支援の改善に繋がる大切なものとなりました。
キャマラードとは、フランス語で「仲間」の意味。日常的に人が行き来する町のなかで、
重い障害のある人のいきいきとした暮らしが実現しています
・社会福祉法人キャマラード
団体情報はこちら(CANPAN 団体DBへ)
・2017年度 日本財団支援事業
医療的ケアに対応した移動支援調査
市町村の移動支援事業における医療的ケアの必要な障害児者への対応の現状調査と結果の情報発信。