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ITと広報の力で病気と闘う子どもを社会とつなぐ

2019.02.28
つなぐプロジェクト

分身ロボットで病室のベッドから学校に通おう

「今日はOriHimeの日!」

鳥取大学医学部附属病院に入院中の男の子は、明るい笑顔を浮かべて廊下の向こうの院内学級の教室へ。扉を開けると机の上にはiPadがセットされています。

 

「おはよう! 次の授業は算数だよ」

タブレットの向こうから元気な声が聞こえ、画面には子どもたちの顔が集まってきました。「おはよう! ありがとう!」男の子も明るく応え、さっそく授業が始まります。

 

画面の向こうの教室には、男の子に代わって「OriHime」という人の形をした分身ロボットが出席しています。座席は、黒板と先生の顔が見える教室の一番前で、内蔵されたカメラとマイクを通して授業の様子を男の子の手元のiPadに伝えているのです。男の子がiPadを操作すると、OriHimeが手を上げたり、うなずいたり、先生に指されれば、マイクを通して答えることもできます。

 

「今、クラスの歌はこれだよ!」「待ってるからね!」「帰ってきたらたくさん遊ぼうね!」

授業が終わると、クラスの友だちがOriHimeに向かって次々に声をかけていきます。病気の子どもたちにとって、友だちの声が何よりの薬。早くみんなと会えるように、辛い治療を頑張る気持ちが生まれてくるのです。この男の子と同じように、遠隔授業を受けた子どもたちはみんな、治療に前向きに取り組めるようになっていくそうです。

クラスの様子がOriHimeを通して病院のiPadに届きます。

子どもたちはすぐに慣れ、ロボットを通したコミュニケーションを楽しんでいるそう

子どもが子どもの世界で成長するために

OriHimeで病院と学校をつなぐ遠隔教育事業をサポートしているのは、鳥取県で活動する任意団体「つなぐプロジェクト」。鳥取大学医学部附属病院で広報を担当していた今川由紀子さんが立ち上げた団体で、病気や障害をもつ子どもと家族を支えるため、医療と教育など、社会の管轄を超えたつながりをつくることを目的に設立されました。

「子どもの入院生活は、きょうだいや友だちとの面会が禁止されているため、医師と看護師、父母といった大人ばかりの世界ですが、子どもは子どもの中で成長するもの。OriHimeを使って友だちと触れ合うことで、闘病中の子どもたちが前向きに成長していく様子に、大人たちが元気づけられています」と今川さん。

2017年は、米子市立就将小学校、それから県立養護学校2校の計3校と鳥取大学医学部付属病院の院内学級との間で遠隔教育が実施され、約20名の子どもたちが病院の外の友だちとつながりました。同時に効果検証委員会を設置して、OriHimeを使った遠隔教育がどのような効果があったのかを教育的、医療的側面から有識者を交えて検討。子どもたちの精神面への大きな効果を確認しました。

院内学級からクラスの授業に参加。

入院中の子どもが友だちに勉強を教えてあげることも

視覚による文字入力で重症の子どもが自分の意思を表現

院内学級に登校できない重い症状の場合には、病室のベッドから授業に参加することも。学校の教室からは病院の様子は見えないので、闘病中のつらい姿を友だちに見せることなく授業に参加でき、自分の気持ちのペースを守りながらクラスの一員として教室の一角で過ごせます。さらに、OriHimeを学校の外に持ち出して、社会科見学に参加した子どももいました。

体が動かせず、言葉を発することもできないような重度の障害がある場合は、視線の動きで文字盤が打てるキーボード(意思伝達装置OriHime eye)が用意されました。ひらがなを理解しているのかさえ分からなかった寝たきりの子どもたちも、「はい」「いいえ」という簡単なコミュニケーションを覚え、さらに自分の名前を手始めに文字を学んで、さまざまな表現を身につけているというから驚きます。

「これまで隔離されていた子どもたちが社会とつながっていく様子には感動を覚えます」と今川さん。人工知能(AI)ではないOriHimeは、人が存在し、気持ちをやりとりしようとすることで初めて役に立つロボット。これまで隔離されていた病室と社会との交流が、現代の最新技術で実現したのです。

米子市立就将小学校上村一也校長による遠隔授業に関する論文

「学校現場における分身ロボットの活用法と今後の可能性について」が

ちゅうでん教育振興財団による教育大賞を受賞

情報発信で、子どもと社会をつなぐ

つなぐプロジェクトでは、遠隔教育事業のほか、鳥取県内の在宅支援の情報を紹介するウェブサイトやフリーペーパーの制作、それから、病児に関わる多職種による交流会の運営など、病気をもつ子どものことを社会に伝える多種の活動にも取り組んできました。

フリーペーパーとウェブサイトでは、病児や障害児に対する支援制度、支援団体に関する丁寧な取材記事が掲載されました。県や市の窓口や関係機関などで1000部が配布され、関係者だけでなく、これまで支援を受けてこなかった病児の家族にも届き、相談につながるといった効果が生まれたそう。また、子どもの在宅医療に関する課題が広まるにつれ、高齢者しか対応していなかった訪問医療の機関が小児の取り組みを始めたという動きも見られました。

「医療は医療、教育は教育。つなぐプロジェクトはそれを『つなぐ』ことが専門性なのです。子どものより良い育ちという共通の目的に向け、それぞれのプロがそれぞれの現場で一番良い仕事ができることを願い、つなぐプロジェクトは活動させていただいております」と、今川さん。遠隔教育事業は鳥取での取り組みをきっかけに全国的な広がりを見せ始め、困難を抱えた子どもと社会をつなぐ活動は県の境を越えて続いています。

交流会では医師や理学療法士など病児を支える多職種が集合。

「移動」をテーアに、日常から旅行まで、さまざまなアイデアや課題が話されました

・つなぐプロジェクト

 団体情報はこちら(CANPAN 団体DBへ)

・2017年度 日本財団支援事業

 鳥取県小児在宅支援者ネットワークの構築

  1. フリーペーパーやウェブサイトによる在宅支援に関する情報発信
  2. 在宅支援を実施している専門職の交流会開催(計3回)
  3. ICT機器(分身ロボットOriHime)を活用した遠隔教育事業の実施、導入校でのサポートと効果検証委員会開催

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