家族で過ごす小児がんの診療施設
理想の療養環境を追求して
医療技術が進み、今では7~8割が治るようになった小児がん。しかしその闘病は辛く、治療期間も年単位に及びます。さらに、生活の場となる病院には「子どもの育ち」に必要な環境が十分に揃っておらず、体を動かせるようになっても、制約の多い空間では心身に好ましくない影響を与えることも。また、長期にわたる入院で家族が離れ離れになるため、病児はもちろん、そのきょうだいたちも不安を抱え、新たな問題となることもあります。
一方、急性期を越えて在宅看護に移行すると、今度は子どものケアを家族が一手に引き受けることになり、病状の急変への心配など不安も尽きません。
小児がんの闘病生活を家族いっしょに安心して送れる施設があれば。
安定期の子どもがのびのびと過ごせる、病院と家庭の中間的な施設があれば。
小児がんの療養環境に問題を感じた医師や看護師、患児の家族、それから建築家らが集まり、理想の医療環境について2005年から7年かけて話し合いが重ねられました。その結果誕生したのが、2013年、大規模な医療機関が集まるポートアイランド(神戸市)に開業したチャイルド・ケモ・ハウス(以下、チャイケモ)です。
清潔感にあふれ、滞在がうれしくなるチャイケモの環境。
居室は外から直接出入りできるので仕事で帰宅が遅くなる家族も安心です。
施設名のケモとは、がんの化学治療(ケモテラピー)のこと。
日常生活をそのままに。家族で暮らせる病院
チャイケモの建物には、日々のケアや診療ができるクリニックと、闘病中の子どもと家族がいっしょに過ごせる居心地の良い居室(病室)が19室、さらに子どもが跳んだり走ったりできるプレイルーム、学校や幼稚園になる教室やレストランがあります。居室は、それぞれにキッチンやリビング、庭に面した玄関が付いていて、まるでマンションの一室のようです。
「ここのコンセプトは“日常生活の維持”。お母さんの手料理が食べられる部屋で家族の日常生活を送りながら、必要な時はいつでも診察やケアが受けられます。小児がんの療養環境の課題は、医療者が気づいていてもあきらめてきた長い歴史がありました。チャイケモをモデルに “解決できる”ことを見せ、状況を変えていきたかったのです」。施設を運営する公益財団法人 チャイルド・ケモ・サポート基金理事長で、チャイケモにあるクリニック院長の楠木重範さんが理念を語ります。
利用は、病状が安定している小児がんの子どもが中心で、主治医がいる医療機関とチャイケモが連携できることが前提。医療機関同士の信頼関係も、子どもの療養の大切な環境のひとつです。
長期の治療入院の合間にチャイケモならOKと外泊許可が出てここで家族の時間を持てたり、また、在宅で終末期を過ごしている場合、急変した子どもが病院に行くのを嫌がって家族が困惑することも多いのですが、チャイケモなら行くと言ってくれて、安心して大切な時間を過ごせるということも。
広いプレイルームは公園です。遊んだり、くつろいだり、
またさまざまなイベントが催されることも
日常を共に過ごすからできるきめ細やかな家族支援
チャイケモが重きを置いていることの一つに「家族看護」があります。特にきょうだいはあらゆる場面で我慢を強いられ、不安と不満というアンビバレントな感情の中で不登校や引きこもりとなることも多く、保護者がさらに追い詰められることも。そのため、きょうだいには患児とは別の担当看護師をつけ、さまざまな相談にのっています。
定期的に開催する「きょうだいイベント」では、患児はなしで、きょうだいと保護者だけに特別な時間を過ごしてもらいます。「あなたも大切だよ」「一人じゃないよ」「素直な感情を出していいんだよ」というメッセージを伝えるなど、プログラムに心のケアを織り交ぜることで、イベントの後には荒れていた子どもも落ち着きを取り戻すといいます。
また、夜間も看護師が常駐しているため、ふと不安を感じた時には家族はいつでも相談支援が受けられるのもチャイケモならでは。療養と日常が共存するコミュニティだからできる、きめ細やかな支援です。2017年にはスタッフの家族支援力向上のため、さまざまな外部講師を招いて12回もの研修を行いました。
「幼稚園に通ってみたい!」という希望を叶え、チャイケモ幼稚園が開園しました
よりよい小児がん療養環境の広まりを目指して
「小児がんは、病気の実態が一般にはほとんど知られておらず、すべての人に適切な治療が行なわれているとは言えないことも課題であると考えています」と楠本さん。チャイケモの存在が知られることにより、より多くの人に小児がんの正しい情報が届くようにすることも大切な目的と語ります。
「チャイケモの設立準備開始から今までの約15年間で、子どものためのレスパイトやホスピスといった外部機関と医療機関との連携が増えるなど、医療の世界が開かれてきたことを感じます」と楠本さん。とはいえ、チャイケモも含めたこれらの施設は、常に人材と資金の不足が課題であるのも現実です。近隣の大きな病院の看護師が1~2年チャイケモで研修をして戻る、という仕組みが理想です。そうすることで、大規模な医療機関にもより深い家族支援の視点が獲得され、中間的医療施設の活用が社会的に認められるようになれば、より多くの子どもたちがより良い療養生活を送れるようになるでしょう。
「チャイケモで過ごせて楽しかった!」
家族いっしょの温かな時間と、それを支えるスタッフとの関わりが、病気と闘う子どもたちの心を健やかに育むチャイケモ。小児がん療養施設の理想のモデルが当たり前になる日を目指して活動は続きます。
スポーツのインストラクターによるリハビリは夢中になれるひととき。
子どもたちの体力がぐんぐんついていくのがわかります
・特定非営利活動法人チャイルド・ケモ・ハウス
団体情報はこちら(CANPAN 団体DBへ)
・2017年度日本財団支援事業
医療的ケアに対応した地域連携ハブ拠点のモデルづくり
難病の子どもが退院し、自宅生活を始める際など、病院から在宅へのスムーズな移行を行うための中間施設としての体制整備を行う。非常勤医師、常勤看護師、非常勤看護師の雇用と、医療と福祉の連携のための勉強会の開催などを実施。