地域資源をつなぐ「地域連携ハブ拠点」と人材の育成を目指して
「スペシャルニーズのある子どもと家族支援を考えるシンポジウム」より、主要コンテンツを全4回にわたってお届けするレポート。第4回は、日本財団が今までに取り組んできた難病の子どもと家族を支える取り組みについて、その内容とビジョンを紹介する。
当日配布資料より
日本財団が取り組む「難病の子どもと家族を支えるプログラム」
現在、難病の子どもの数は、25万人以上と言われている。その中で、小児慢性特定疾病医療費助成受給者は、約14万人*1。医療的ケア児の数は、18,272人*2。生命に危険がある、また入院治療を要する子どもは2.3万人だ*3。日本財団が支援の対象としているのは、その全ての子どもであり、その子の状態で区切るということはしていない。
そして、子どもだけでなくその親や兄弟姉妹など、家族も対象としている。「難病の子どもと家族を支えるプログラム」というプログラム名に表れているとおり、日本財団の行ってきた難病児支援事業の大きなポイントとなっている。
日本財団が行なっている取り組みは、①自宅生活を支える事業 ②入院生活を支える事業 ③キャンプ・旅行を支える事業、という3つの切り口で、ハードとソフトの両面からアプローチしている。
ハード面での取り組みとしては、日常的に福祉や医療のサービスに基づいて通ったり泊まったりすることのできる施設に加えて、キャンプや旅行を目的として家族全員が利用することのできる施設の整備。ソフト面での取り組みは、専門職の人材育成、プロスポーツチームや分身ロボットと連携した復学支援、アウトリーチによる相談支援、調査業務やシンポジウムの開催など、多岐にわたる。
2011年~2014年は、公益社団法人日本歯科医師会の協力を得て実施している「TOOTH FAIRY(歯の妖精)」プロジェクト(金・銀・パラジウムなど歯科撤去金属をリサイクルして寄付金として受け入れ)による支援を中心に活動を展開。病院訪問やキャンプ事業、レスパイト施設の建設を中心に支援してきた。
2015年からは、在宅生活支援も強化し、さらに地域連携のハブとなるモデル拠点をつくることにも注力しはじめた。このモデル拠点とは、あらゆるセクターと連携し、地域の特性を理解しながら事業形成を推進しているもので、いずれ市町村を横断した二次医療圏(全国約350エリア)にもこのような拠点が波及していくことを目指している。現在、日本財団が掲げる目標は、全国に30箇所。
このモデル拠点は、2012年から2018年までの間に18拠点が既に開所しており、今年は、4月に「博愛こども発達・在宅支援クリニック」(鳥取県米子市)、夏に「Kukuru+」(沖縄県那覇市)、冬には、沖縄県恩納村と合計3箇所がオープン予定だ。建設中の拠点を含む計21箇所の内訳としては、宿泊可能な施設が7箇所、日中の預かりが可能な施設が10箇所、キャンプや旅行を楽しめる施設が4箇所。モデルをつくる際には、立地、業態、収入形態、実施主体のバックグラウンド、オリジナリティ、先進性などを加味しながら、計画をしている。
金額としては、2010年度から2018年度までの間に、182事業、約37億円の交付金・寄付金での助成や支援を行っている。その中で、21箇所の新たなモデル拠点整備には約26億円を支援した。
*1:試算、厚生科学審議会疾病対策部会指定難病検討委員会資料より
*2:在宅自己注射指導管理下を除く、全ての在宅療養指導管理下の算定件数合計値、平成29年厚生労働科学研究報告より
*3:0-14歳、平成26年患者調査より
地域の資源を〝つなぐ〟ことが、子どもと家族の孤立を防ぐ
日本財団が取り組んでいる30箇所のモデル拠点は、「難病の子どもと家族が孤立しない支え合いの社会をつくる」を目指している。
難病の子どもと家族が孤立しがちなポイントとして4つのシーンに着目している。
❶家と病院の往復
小児集中治療室や新生児集中治療室が象徴的だが、子どもが病院に入院していて、家族が家と病院を往復する場合、家族の心理的・経済的な負担は大きい。
❷病院から退院するタイミング
24時間3交代制でケアされる病院から、家族が中心となりケアすることとなる在宅開始のタイミング。このタイミングで孤立するとケアの重責で更に孤立を深める可能性がある。
❸成長することによる活動拠点の変化
成長は子どもにとっても親にとっても喜ばしいと同時に、その変化、周りとの新しい出会いは、ともすると情報引継ぎの困難さをうむ。
❹院内学級での生活
入院し、院内学級に入ることで、これまでの同級生との学校生活が中断してしまう。
これらのシーンを中心に、難病の子どもと家族が孤立しない支え合いの社会を目指すべく、地域連携ハブ拠点のモデルづくりを推進している。
難病の子どもの命を支える「医療」、生活を支える「福祉」、学習を保障する「教育」、そして難病の子どもだけではなくその両親や兄弟姉妹といった家族の暮らしを支える「フィランソロピー」という4つの領域。これらを包括的にアプローチするモデル拠点を作ることで、制度を活かすとともに、制度の狭間や制度によらない自主的な取組みが増え、結果、難病の子どもと家族が孤立しない状態づくりに寄与することを期待している。
日本財団は、30箇所のモデル拠点を「地域連携ハブ拠点」と呼んでいる。これは、モデル拠点が地域を繋ぐ〝ハブ〟となることを期待していることによる。モデル拠点が〝ハブ〟としての強度を持つためには、場所があるだけでなく、地域の様々な職種の人や専門家、そして市民を繋げていくことも必要だと考える。
モデル拠点は、建物があるだけでは〝ハブ〟としての強度は高いとは言えない。小児科医や訪問看護師などの医療の専門家がいることや、児童発達支援事業所や子育て支援センター、特別支援学校、専門のNPOなど福祉や教育の専門家がいること、そして地域市民など、多様な人材の協力があって初めて機能するところもある。
阪神・淡路大震災をはじめとする様々な災害を支援しているが、地域の中で様々な職種や専門を持つ人たちが繋がっていくことは、難病の子どもとその家族の日常にとってはもちろんのこと、災害などイレギュラーなことが起こった時にも強みになる。地域が繋がりを持っているということは、平時の関係としても大切であり、また何かが起きた時にその関係性を生かせる強みとも言える。
日本財団が行っている支援事業は、難病の子どもと家族にとどまらず、地域全体にフォーカスを当てている。モデル拠点ができることが、その地域の中で支えあいの環境を更に育むきっかけに繋がると嬉しい。
モデル拠点を通じてスペシャルニーズを持つ子どもやその家族への理解が深まることも大切だと思うと同時に、近所の人、同世代の子どもたち、拠点利用者、運営者が何気なく声を掛け合えるようなカジュアルな繋がりが育まれると、地域としての強度は一層高まるのかもしれない。
難病の子どもと家族が孤立しない、支え合いの社会を創ることを目標に、ソーシャルムーブメントを起こしながら、医療・福祉・教育・フィランソロピーの領域を包括するようなアプローチができたらと思っているが日本財団だけでは推進しえない。ぜひとも、全国のみなさんと情報交換をしながら、一緒に歩んでいけたらと思っている。